2015年6月2日火曜日

「NPO法人移動支援Rera」の報告会から学ぶ”おでかけ”の大切さと、”平時”への移行





 531日、NPO法人移動支援Reraの初めての報告会が石巻専修大学で開催された。
現代表の村島弘子さんとスタッフ。
オレンジ色の服がぬくもりを感じさせる。


 東日本大震災直後、石巻に入り、物資支援や泥だしをしていた札幌を拠点とするNPO法人ホップ障害者地域生活支援センターは、20114月頃から移動支援を専門とする「災害移動支援ボランティアRera」として活動するようになった。活動は徐々に地元スタッフに移行していき、20132月には「NPO法人 移動支援 Rera」となり活動を継続している。利用者数はのべ8万人、総合走行距離は25万キロ。需要は高い。

 報告では、震災直後の状況から地元スタッフへの移行の様子、日々の活動の報告等がされた。利用者の半数以上は、70代、80代の一人暮らし、二人暮らしである。9割は通院。その他、買い物、老人施設への送迎などもあるが、遠慮してなのか、「おでかけ」のための利用はあきらめている、という人が多いようだ。

震災直後、人気だったのはお風呂送迎。お風呂に入る前「もう死にたい」
と言っていた利用者が、帰る時には「生きていてよかった」と話していたと、
今では笑い話にもできることが、当時は切実な問題だった。


初期の手づくり看板


Reraボランティアの方々



廊下の展示を見ながら当時のことを思い出した人も多かった人も多かっただろう

 避難所から仮設住宅へ、生活も環境も時を追って変化してきたが、ニーズは変わらなかった。震災以前からの問題が震災で悪化し浮き彫りになったという。
 被災地では加えて、元々バス路線の通っていない地域への仮設住宅建設、病院の閉鎖や遠方への移転、家族構成の変化で送迎をしてくれる人がいなくなったなどの状況の変化に、さらなる対応が求められてきた。それでも、平成27年度までは、被災地の地域交通は、国土交通省の財政支援に支えられてきたが、それも終了する。今でも、全国からボランティアは集ってくるが、いつまでも外部ボランティアに頼ることはできないので、地元スタッフの獲得のため、講習会などを開催してきた。
 人材の獲得、資金繰り、 「平時」を取り戻していく過程での課題は山積している。


 地域交通政策やまちづくりを研究している福島大学の吉田樹(いつき)先生からは、「おでかけ」の意味と地方交通政策の現状について話があった。

福島大学の吉田樹先生











住民調査によると、移動販売車に来てもらったり、生活支援サービスを頼ったりするよりも、自らが足を運んで買い物をすることを望む声が強い。
「どうでした?」「いっぱい話したよ。久しぶりだったからね。」車の中で話されるたわいのない日常会話。そんな会話も一人ではできない。車の中でのなにげない会話、それが、こころの安定につながる。地域交通が、物理的に必要なものを求めることだけでなく、心の解放や体の機能を支えることにもつながる。
 地域交通事情は 被災地に限らず、どこの地方でも問題を抱えていることがらだろう。国も人口減少、少子高齢化が急速に進む今、現状に会わせる方向で、法律の改正なども行っているが、実際にマネジメントするのは地方行政になる。

 地方では、赤字経営や人材不足が問題になっているが、全く手だてが無いわけでもないだろう。地域の取組としては、事業者や地域の枠を越えた連携とネットワークが解決の糸口になり得る。
 栃木県や山形県での例も紹介された。 病院の外来時間、大型商業施設、鉄道駅、温浴施設へのアクセスを便利にするだけで、利用率も変わる。栃木県足利市では、おでかけできる範囲を広げ、本数を増やすことも利用率アップにつながり、高齢者以外の利用者も、収入も増えたそうだ。
山形市明治・大郷地区の「スマイル・グリーン号」はデマンド型タクシー(注1)として開始したが、地域住民との話し合いで、サービス水準を決めたり、「スマイル・グリーン号」を巡る各種イベントを通じ、地域に愛される「地域車」になっているという。

スマイル・グリーン号のイベントに沸く地元を紹介

 復興まちづくり計画では「生活難民」をうみださないよう土地利用計画ととも に交通戦略をかんがえなければいけない。そのためには、各自治体の「平時」の素地が大きく反映されるが、平時に地域交通の問題が表に出てくることはあまりないらしい。今まで問題視されていなかった問題は復興計画 にもなかなかあがってこないのが現実だということだ。
課題は山積しているが、地域交通の問題が表面化している被災地の今は改革のチャンスか もしれない。
 住民が自ら考え実行に加わってこそ、輸送だけでない福祉の可能性が広がっていくのではないだろうか。

by:編集長 河崎清美

注1【デマンド型タクシー】
ドア・ツー・ドアの送迎を行うタクシーに準じた利便性と、乗合・低料金というバスに準じた特徴を兼ね備えた移動サービス。
(「日本総研」ホームページより http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=6953 )


NPO法人 移動支援ReraとNPO法人 地星社の恊働で実施されたアンケート調査の結果が、調査報告書、「宮城県沿岸被災地における移動困難者の状況調査〜石巻地域の移動困難者へのアンケートから〜」としてまとめられている。







報告会のあとは、カフェ市
(昨年オープンした福祉作業所が運営するカフェ)
のお菓子とソフトドリンクで交流会



0 件のコメント:

コメントを投稿